★2002年6月1日禁煙デー記念講演会スライドはこちら →  パワーポイント版 (2,288KB)   HTML版(2,670KB) 主催:兵庫県喫煙問題研究会・日本禁煙推進医師歯科医師連盟兵庫支部 会場:六甲道勤労市民センター5階大会議室

《講演要旨》「さあやろう!喫煙対策 〜空気清浄機問題に取り組んだ医師からの提言〜」

  講師 洲本市健康福祉部健康課・洲本市禁煙支援センター 山岡雅顕

※当日はスライドを100枚あまり使用しましたが、HPに掲載しているものはそのうちのパワーポイント形式になっているものです。

挨拶・自己紹介/略歴紹介(略)

今、喫煙対策を進める上で様々な追い風が吹いています。喫煙者の減少(1966年男性84%女性18%→2000年男性53.5%女性13.7%)、喫煙の害の報道と知識の普及、WHOのタバコ規制国際枠組条約(2003年制定施行予定)、健康日本21喫煙対策(これから地方自治体で始まる)、健康増進法、タバコ値上げ?・・・といったことです。喫煙対策には、防煙(タバコを吸い始めない)、分煙(非喫煙者をタバコ煙から守る)、禁煙(タバコを吸う習慣をやめる)、知識の普及(正しい知識を普及する)、環境整備(タバコ値上げ・自販機撤去・広告廃止・・・)といったものがあります。今日はこのような喫煙対策の話をしたあと、昨年から取り組んでいる空気清浄機問題についてお話をさせて頂きます。

まず「防煙」ですが、1900年に制定された未成年者喫煙禁止法が2000年に「罰金50万、店主も罪」と改正され、さらに2001年には年齢確認義務が追加されました。しかし、街角には未成年者の7割が購入しているというタバコ自販機が氾濫しており、たばこ事業法施行規則 第20条3項 「たばこの販売について未成年者喫煙防止の観点から十分な管理、監督が期し難いと認められる場所である場合」に違反している状態が野放しです(違法自販機の洲本市、三宮、岡山の実例スライド)。このような環境の中、未成年者の喫煙は急増しています。未成年喫煙防止に有効なのは、防煙教育では単にタバコの害を教えることだけではなく、正しい知識のもとで「自分で判断する力を」養うことが重要だといわれています。また、自動販売機の撤廃・広告規制・タバコ値上げ(先進国は1箱500〜1000円)が、未成年の喫煙を減らす有効な手段だということがわかっています。有効であるがためにこれらの対策には特にタバコ産業は断固抵抗します。(未成年喫煙があるからこそ、タバコ産業は大きな市場を維持できています。未成年喫煙は早く強い依存が形成されて、一生顧客になってくれますが、成人してからの喫煙は依存形成が遅く弱く、一生の顧客にはなってくれないので効率が悪いのです。)

次に「分煙」ですが、2010年を目標年度にした国策「健康日本21」では、「公共の場や職場での分煙の徹底、及び、効果の高い分煙についての知識の普及」という目標を掲げて、「受動喫煙からの非喫煙者の保護という趣旨を徹底し、また「たばこのない社会」という社会通念を確立するために、不特定多数の集合する公共空間(公共の場所及び歩行中を含む)や職場では原則禁煙を目指す。家庭内における受動喫煙の危険性についても、普及啓発を図る」「保健医療従事者や教育関係者は、国民に対する範として、自ら禁煙に努める」と明記しています。これらのことから、公共施設・医療機関・教育機関は、分煙ではなく禁煙とし、職場は禁煙または完全分煙とするのが適切です。完全分煙とは、産業医大大和先生によると、「もれない・こもらない喫煙室」の設置であり、「禁煙エリアから喫煙室を通って外部に流れる、 0.2m/秒の気流が生じる排気装置」つまり、ドア1枚分の空気流入口に換気扇2台あれば理想的な喫煙室が設置できます。この際空気清浄機は意味がありません(後述)。分煙について詳しくは産業医大 大和先生のHP「煙の漏れない効果的な空間分煙」http://tenji.med.uoeh-u.ac.jp/smoke.html を参照下さい。

次に「禁煙」ですが、ニコチンガム(商品名:ニコレット)、ニコチンパッチ(商品名:ニコチネルTTS)といった禁煙補助薬の登場で格段に禁煙をはじめやすい環境が整っています。禁煙外来を開設する医療機関も増え、旧厚生省が2000年から老人保健事業の中で喫煙者個別健康教育を実施することを認めたために、禁煙支援に取り組む自治体が増えています。また、禁煙に取り組む企業も増えているようです。洲本市でも2001年4月より喫煙者個別健康教育制度を利用した禁煙専門外来を開設して毎週火曜日に実施しています(写真などをスライドで紹介。詳細はホームページを参照下さい。洲本市禁煙専門外来&禁煙支援センターホームページ http://www1.sumoto.gr.jp/shinryou/kituen/ )。

次は「知識の普及」です。ここでは、依存性・能動喫煙の害・受動喫煙の害・社会的な損害というタバコの4つの害についてお話します。

まず、依存性ですが、喫煙者はニコチンがきれると、抗不安作用のあるセロトニン、多幸感を生むドーパミン、興奮作用のカテコールアミンが出ない状態に陥り、集中力低下・落ち着かないなどの禁断症状を呈します。タバコを吸うとこれらの症状が消えるために、喫煙者は「タバコを吸って落ち着いた、集中力が出た、これはタバコの効用である」と思いがちですが、これはとりもなおさずニコチン依存症の典型的な症状に過ぎません。しかしこのような依存に一旦陥ると禁断症状に打ち勝って自力で禁煙することが困難になり、やがて「タバコを吸うことを正当化しよう」(合理化)、「タバコの害を無視しよう・好きで吸っていることにしよう」(否認)といった病的思考・行動をとるようになります。これが各地で喫煙対策を妨害し、受動喫煙にも平気な状況を生み出している正体です。

タバコには、4000種類以上の化学物質、200種類の既知の有害物質と、43種類の既知の発癌物質が含まれ、ニコチン・一酸化炭素、タールが3大有害物質と言われたりします。有害物質は例えば、ダイオキシン(ごみ焼却場から出る煙より3〜18倍の高濃度)、ヒ素(和歌山カレー事件)、ホルムアルデヒド(シックハウス)、カドミウム(イタイイタイ病)、鉛(子供の脳に蓄積)、窒素酸化物、ベンツピレン(強力な発癌物質)・・・などが検出されており、結局、タバコは「毒の缶詰」と呼ばれています。タバコからダイオキシンが検出された事実については、1994年11月「第10回ダイオキシン国際会議」で紙巻タバコの葉にダ イオキシンが含まれている事が発表されたのが最初で、この時調査対象になったのは、日本を含め8カ国・地域で市販されている20銘柄のタバコでした。また、日本でも1998年2月厚生省の「21世紀のたばこ対策検討会」第1回資料で「タバコ煙中のダイオキシン濃度はゴミ焼却場3〜18倍高濃度」とする資料が提示されており、現在もホームページでこの資料を見ることができます。http://www.health-net.or.jp/tobacco/21c_tobacco/1st/23.html

このようなことから、喉頭癌の96%、肺癌の9割(以前は7割と言われていましたが、軽いタバコの流行で深く吸い込むようになった結果、肺中心部に加えて、肺の奥深くの肺癌も喫煙者に増えた結果、肺癌の9割がタバコが原因となっています)など多くの疾病の原因となっています。手足が腐ってくるバージャー病(スライドで実例の提示)や肺が徐々に消失して呼吸が出来なくなる肺気腫(コロンビアライトさんの紹介)もいわゆる100%タバコ病です。昔、「タバコがボケを防ぐ」というデタラメな発表がなされたアルツハイマー病も、タバコが有力な危険因子であることが分かっています(喫煙者は男性で3.17倍、女性で1.5倍アルツハイマー病になりやすい)。若い女性には「美容への悪影響」がインパクトがあり、「タバコを吸うと、顔色が悪く、肌に張りがなくなり、しみやそばかすが増え、乾燥したしわの多い皮膚に


なる。歯にはヤニがつき、歯肉の色も悪い。タバコは10年以上老化を促進させる。」といったことをビジュアルを交えて伝えると効果があります。(参考:アメリカ Action on Smoking and Health ホームページより22歳の双子の40歳時を予想した写真http://no-smoking.org/sept01/09-28-01-2.html)

受動喫煙の害については、夫が20本以上喫煙する時の妻の肺がん死亡率(夫が非喫煙者である場合を1.0とする)が、1.91倍であることを突き止めた故平山雄氏の研究(1983年)が世界的に有名で、その後、受動喫煙の様々な害が明らかになっています。受動喫煙によって、非喫煙者はあらゆるタバコ病のリスクを負うことになり、特に弱者である子どもは、気管支炎・喘息・肺炎をおこしやすくなり、乳幼児突然死(SIDS)のリスクも高まります。受動喫煙の危険性は非常に高く、大気汚染や食品添加物などの社会的リスク許容基準は10万人がその環境に暴露されてもそのために死亡するリスクが1人以下と定められていますが、受動喫煙は10万人暴露されると5000人(20人に1人)が死亡するリスクの高さです(北海道・深川市立総合病院松崎道幸氏1998年の試算)。(ちなみに能動喫煙による死亡リスクは50000人(2人に1人)、交通事故死1000人、石綿内装破損住宅で肺ガン死460人、東京環七そばに住みディーゼル排ガスで肺ガン死300人、北海道地方都市に住みディーゼル排ガスで肺ガン死3人、胸部X線撮影1枚で肺ガン死0.05〜0.5人 いずれも松崎氏の試算、2002年版)また、受動喫煙による知能低下の報告もあり、妊婦が10本以上喫煙すると子どもが11歳の時点で知能指数がそうでない子どもに比べて6低かったほか、計算能力や身長も低かったというものなどです。また、妊婦の喫煙は急増していますが、洲本市の調査では、喫煙する妊婦は、喫煙が「低体重児」「流産・早産」のリスクであることはすでに9割以上知っており、その一方で、「乳幼児突然死症候群」「先天異常」「知能低下」のリスクであることについては、禁煙した妊婦より知らないということが明らかとなっており、今後、妊婦喫煙を防止するためには、「乳幼児突然死症候群」「先天異常」「知能低下」ということを啓発していくことが重要です。

社会的損害については、喫煙者がタバコを吸い続ける苦しい言い訳に「税収に貢献している」というのがありますが、国立がんセンター後藤公彦氏の試算(「環境経済学概論」5.経済・不経済の判定事例 p28-41 朝倉書店1998)によると、タバコ産業経済メリット2兆8千億円に対して、タバコ産業社会コスト5兆6千億円とされています。詳細には右の通りです。この試算には、受動喫煙被害や肺癌はじめタバコ病の研究にかかった費用、タバコ関連疾患で死亡した人の家族の痛みなどは考慮されておらず、これでも控えめの数字となっています。年間約3兆円の損失を年間売上タバコ本数3000億本で割って、タバコ1本あたり10円の国家負担、タバコ1箱の適正価格は600円、と上の論文には書かれています。つまり、よく言われる「税収に貢献している」という言い訳は通用せず、逆に非喫煙者を含めた社会全体に経済負担をかけていることになります。

タバコ産業経済メリット 2兆8千億円

 タバコ税       1兆9千億円

 タバコ産業賃金      1900億円

 タバコ産業内部留保   1600億円

 他産業賃金           1700億円

 他産業利益等          3300億円

タバコ産業社会コスト  5兆6千億円

 医療費        3兆2千億円

 損失国民所得      2兆    

 休業損失         2千億円

  消防・清掃費用      2千億円


テキスト ボックス: ご指摘に基づき、弊工業会空気清浄機専門委員会としては次の対応を行うことを決定いたしましたので、ご回答申し上げます。
1)お客様に空気清浄機の機能・性能をより正しくご理解頂き、目的に合った
ご使用をして頂くために、空気清浄機専門委員会加盟各社の広告、商品カタ
ログなどの記述に関して次のように改善してまいりたいと存じます。
  @ 「煙草の煙」に関する記述をする場合は、「煙草の有害物質(一酸化
炭素等)は、除去できない。」旨を付記いたします。
  A 絵表示(ピクト)での記述についても同様に扱います。
2)上記については、弊工業会ホームページで同旨の情報発信をいたします。
 最後にタバコと空気清浄機の問題についてお話します。タバコ煙の有害物質の9割以上はガス成分でこれらは空気清浄機や分煙機では除去できずに素通りしています。しかし、メーカー各社は「タバコの煙がきれいになります」「受動喫煙対策に使える」などの広告販売を行っていました。そこで、昨年7〜8月にメーカー各社に一斉にメールを送り、「一酸化炭素はどのくらい除去できるのか」「有害物質の大部分であるガス成分が除去できないのに『きれいになる』はおかしいのではないか」「空気がきれいにならないのに『空気清浄機』という名称もおかしいのでは」などを問いただしました。空気清浄機メーカーは、三菱電機や松下電器などおもに家庭用の機器を売る日本電機工業会(JEMA)加盟メーカーと、トルネックスやミドリ安全などおもに空港や官公庁、職場などに置いている業務用機器メーカーに分かれますが、そのうち、回答に困窮した各JEMA加盟メーカーはJEMAに相談を持ちかけ、8月下旬にJEMAから連絡があり、直接話をしたいと連絡して来ました。そして9月10日(奇しくもニコレット市販開始の日)、JEMA代表4名と私の職場で話し合いを持ちました。話し合いの部屋にはあらかじめ隠しビデオカメラ1台、隠しカセットテープレコーダ2台を設置しておきました(これらの証拠は今後の動向次第では公表する日が来るかもしれません)。話し合いでは、JEMA側は、業界内部で空気清浄機の基準を作って広告販売をしていると主張しましたが、私からは資料(タバコ煙の有害物質、空気清浄機がタバコ煙に無効な理由、厚生労働省の分煙効果判定基準策定検討会の報告書記事、要望事項)を再度提示・説明し、現状の広告販売の実態は「タバコ煙の有害物質も除去できる」と消費者を意図的に騙しているものであると改善を申し入れ、その結果、「加盟企業と早急に前向きに話し合うが、調整などで2〜3ヵ月待って欲しい」との回答を得ました。翌日「タバコの受動喫煙対策の件は、HPをUPする等/各社のカタログ等の変更等 前向きに検討させていただきます」とのメールが来ました。その後、一連の交渉経過を記録し世間に公表啓発し、話し合いを反古にされないように「タバコと空気清浄機の真実を暴露するホームページ」http://nosmoke.hoops.ne.jp/ を9月20日に立ち上げました。そして10月19日に右のような回答がきました。

その後、10月31日に時事通信社がこの件を記事にして報道各社に配信したのを皮切りに、読売新聞、朝日新聞などでも報道され、今年になって1月30には業務用空気清浄機メーカーのミドリ安全から広告を改善するとの回答がありました(注:8月23日には大手メーカーで唯一対応しなかったトルネックスが広告を修正したとの報道が時事通信社からされ、大手の空気清浄機メーカー全てが、空気清浄機・分煙機ではタバコ煙の有害物質は除去できず、受動喫煙対策には不適切であると認めたことになります)。


空気清浄機問題の現在の活動および今後の戦略としては、公共広告機構(JARO)への申告、公正取引委員会への申告(景品表示法第4条1項違反(不当表示))、国・自治体の分煙施策のなかで空気清浄機を使用しないこと、空港の空気清浄機を撤去すること などをすでに実施、あるいは予定しています。

「喫煙者のための咳・痰の薬」として薬局で売られているネオシーダーにニコチン・タールが含まれていることに関してもホームページを立ち上げて、ネオシーダー依存者が多数発生している事実などを販売会社・関係当局等に指摘して、回収・製造販売中止を求めていますが、現在調査中のみの回答で先送りの姿勢を続けています。しかし、これも近いうちに解決に至る見通しがついていますので、経過を見ていて下さい。

最後に、タバコによる犠牲者ですが、日本ではタバコのために年間約10万人が死亡しています(交通事故の10倍)。世界ではタバコのために年間約400万人が死亡しています(500人乗りのジャンボジェット機が毎日22機墜落全員死亡するのと同じ)。2000年8月8日のWHO・世界銀行発表によると「20世紀中にタバコのために1億人が死亡し、21世紀には10億人死亡する」ということです。「10億人の命」を救うためにがんばりましょう。

1人ではない!仲間とがんばろう!夜明けは近いぞ!!

(おわり)